エド・カーペンターが悲願の初優勝
ダリオ・フランキッティは最終ラップで優勝を逃す2位
ウィル・パワーはピットロードでのアクシデントで19位フィニッシュ
フランキッティがポイントリーダーに復帰。パワーは18点差の2位で最終戦へ
佐藤琢磨は22番グリッドから15位完走
2011年シーズンも残すところ2戦と押し詰まった第16戦の舞台は、アメリカ東部ケンタッキー州北部にあるケンタッキー・スピードウェイ。全長約1.5マイルのハイスピード・オーバルは、3台が並んだままコーナリングを行えるエキサイティングなコースですが、同時に年々大きくなるバンプによってドライビングが難しくなっています。
チャンピオン争いは、第15戦インディジャパン ザ ファイナル終了時点で久しぶりにウィル・パワー(Team Penske)がシリーズトップに復活しています。過去に3度のタイトル獲得を経験しているベテランのダリオ・フランキッティ(Chip Ganassi Racing)は、一時は大きなポイントリードを築いていましたが、現在はポイントスタンディング2位へと順位を下げています。第16戦は、ポイント3位のスコット・ディクソン(Chip Ganassi Racing)までタイトル獲得の可能性が残されている状況で迎えられました。
予選ではパワーがポールポジションを獲得し、フランキッティは11番手と苦戦しました。シーズンの流れをパワーがつかんでいる印象はケンタッキーでも続いていました。
秋晴れの下、予選日よりもずいぶんと暖かなコンディション下でスタートが切られた200周のレースでは、ポールポジションからスタートしたパワーが悠々とリードを続けました。しかし、1回目のピットストップへと向かったパワーは、ピットロードでアナ・ベアトリス(Dreyer & Reinbold Racing)と接触し、マシン左側にダメージを受けてしまいました。ピットインを重ねながらマシンの修理が施されましたが、パワーのマシンはスピードが上がらなくなり、19位でゴールするのが精一杯でした。
一方、フランキッティは燃費セーブの戦略を行ってピットにはライバル勢より1周あとで滑り込むと、クルーたちの素早い作業と、温まっていないタイヤでのラップタイムのよさなどから一気にトップに躍り出ました。彼はリードを保ち続けて最多リードラップを記録し、ボーナスポイントの2点を獲得。優勝へまっしぐらと見えていました。しかし、ゴールを目前にした178周目に切られたリスタートでエド・カーペンター(Sarah Fisher Racing)がディクソンを抜いて2位へと浮上し、フランキッティへの果敢なアタックを開始。ケンタッキーで2年連続2位フィニッシュしてきているカーペンターとのバトルはサイド・バイ・サイドのままゴールまで続き、最終ラップの最終コーナーを回ったあとにアウト側のカーペンターがゴールライン目前で大逆転、通算113レース目にして悲願の初優勝を飾りました。Sarah Fisher Racingにとっても、今回の勝利は初優勝となりました。カーペンターとフランキッティとのゴールで差は、IZODインディカー・シリーズ史上で6番目に小さい0.0098秒でした。
3位争いもし烈で、こちらはディクソンがジェームズ・ヒンチクリフ(Newman Haas Racing)とライアン・ハンターレイ(Andretti Autosport)をギリギリでかわして表彰台に上りました。
今日のレース結果によってフランキッティが再びポイントリーダーへと返り咲き、パワーはスタート前の12点リードから一転、18点差で追いかける立場となりました。
佐藤琢磨(KV Racing Technology-Lotus)は、予選22番手で後方グリッドからのスタートでした。決勝用のマシンセッティングも自らが期待したよりもパフォーマンスは低く、集団の中で順位を上げていくことができずにいました。それでもピットストップの速さやリスタートのよさで佐藤は147周目には7位を走りました。さらに上位をうかがって戦い続けた佐藤でしたが、トップスピードが出ないことで順位を落とし、最終結果は15位となりました。
昨年から設定されているオーバルコース部門の王者には、今回3位フィニッシュしたディクソンが輝き、A.J.フォイト・トロフィを初めて授与されました。ロードコース部門のマリオ・アンドレッティ・トロフィは、第15戦インディジャパン ザ ファイナルでウィル・パワーが獲得。彼は同トロフィを2年連続で手にしています。
すさまじいバトルとポイント争いが続いてきた2011年のインディカー・シリーズもいよいよ2週間後の1レースを残すのみとなりました。今年もチャンピオン争いはシーズン最後のレースまで、2人のドライバー、どちらがタイトル獲得を果たすのか、その予想が難しい状況のままもつれ込みます。
その最終戦は、アメリカ大陸を西へと横断してラスベガスで行われます。エンターテインメントとギャンブルの都にある1.5マイル・オーバルでインディカーのレースが開催されるのは2000年以来。どのような戦いとなるかは非常に読みにくい状況です。ドライバーの順応性、チームのエンジニアリング能力といったものが試される戦いとなるでしょう。
コメント
エド・カーペンター(優勝)
「優勝の喜びは想像していた以上でした。ダリオ・フランキッティとのバトルは激しく、そしてクリーンでした。ヘルメットのバイザーが緩むトラブルもありましたが、そんなことで絶対に優勝を逃したくないと考えていました。15~20周ほど片手でバイザーを押さえて走ったあと、ピットインでテープを貼って固定してもらいました。Sarah Fisher Racing、そして家族のサポートがあったことで優勝できました。今日は2009年のレースで学んだことを生かしました。アウト側にマシンを保ち、最後の最後にゴールラインでイン側のマシンを抜いたのです」
ダリオ・フランキッティ(2位)
「予選日は厳しいものでしたが、今日の私たちはやるべきことをやりました。ベストを尽くしたと感じています。レース序盤にいくつかポジションを上げ、ピットストップ後にトップに立つことができました。私はトップを守り続けましたが、プッシュ・トゥ・パスを使い果たし、エド・カーペンターにパスされてしまいました。彼はすばらしいレースを戦っていました。私の方はピットから自分と相手のプッシュ・トゥ・パスの残り回数を知らされていたのですが、1周勘定を間違えてしまいました」
スコット・ディクソン(3位)
「フラストレーションとの戦いでした。理由は判明していませんが、我々のマシンはスピードが出ませんでした。3位というすばらしい結果を得られはしましたが、スピードに乗りきるまでに3~4周かかっていました。リスタートでは早目の加速をトライしていましたが、グリーンフラッグが振られるとフランキッティに突き放され、ほかのライバルたちにパスを許してしまっていました。そうした状況もありながら、フランキッティはポイントリードを手に入れ、私はA.J.フォイト・トロフィを獲得できました」
佐藤琢磨(15位)
「スタートしてみるとマシンがものすごいオーバーステアで、何度かアクシデントを起こしそうになりました。ピットストップでフロントウイングを調整しましたが、それよりも大きな問題としてスピードの伸び悩みがありました。ライバルたちのドラフティングを利用しながら集団に必死でついていきました。リスタートなどでポジションを上げることができたときもありましたが、走り出すとスピードのなさからオーバーテイクされてしまうという非常に悔しいレースになっていました。何がスピード不足の原因なのか、最終戦のラスベガスまでには原因を究明して臨みたいと思います」
ロジャー・グリフィス|HPD テクニカル・ディレクター
「とてもエキサイティングなゴールシーンとなりましたね。エド・カーペンターが見事な戦いぶりで初優勝を手にしました。Sarah Fisher Racingも初優勝です。彼らを祝福したいと思います。ダリオ・フランキッティは優勝したかったところでしょうが、2位でポイントリーダーに返り咲いたことを喜んでいることでしょう。逆にウィル・パワーは全くひどい週末となってしまいました。残るはラスベガスでの最終戦のみです。タイトル争いは今年もシーズン最後のレースで決着することとなりました。出場台数が今回以上に多くなるラスベガスでは、今回以上にすさまじい、インディカー・シリーズならではのバトルが見られることと期待しています」
写真(C)Honda Motor Co Ltd.